大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(う)982号 判決

所論は,本件速度測定装置を操作した警察官平川清広は特殊無線技士の資格しか有していないところ,特殊無線技士に操作することを許されているのは,「レーダーの外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものの技術操作」(無線従事者操作範囲令)のみであり,ここにいう「レーダー」とは,「ある特定の位置から反射され,又は再発射される無線信号と基準となる無線信号との比較を基礎として,位置を決定し,又は位置との関連における情報を取得するための無線設備をいう。」(同令1条8号)とされているのであり,速度は「位置との関連における情報」とはいえず,したがって,本件速度測定装置は右の「レーダー」には該当しないのであるから,同人は無資格で右装置を操作したといわざるをえず,右操作により得られたデータとこれを前提とする供述証拠は,いわゆる違法収集証拠として排除すべきであるのに,かかる違法な証拠を採用し事実認定の用に供した原審の措置は判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反にあたるというのである。

しかしながら,右の「位置に関する情報」に,目標物の位置における目標物の性質,形状,大きさ,速度,進行方向等の情報が包含されると解せられるから(当審取調べの郵政省電波管理局法規課長の東京高等検察庁検事宛て回答書参照)所論は独自の見解といわざるをえず,採用できない。

(判示事項2)

所論は,原審で取り調べられた速度測定カード全体を刑事訴訟法321条3項の検証調書と認めてその証拠能力を肯定したが,右速度測定カードのうち被疑車両の特定に関する部分は,警察官井上孝子が同平川清広からの通報をメモしたものを転記したものであり,右速度測定カードの作成者自らが視覚により現認したところを記載したのではないのであるから,検証調書として証拠能力を認めた原審の措置には判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。

原審証人の供述によれば,記録係濃沼は,測定現認係平川からヘッドホーンを通しての「共同交通5187」という違反車現認の通報をうけ,停止係に向け復唱通報するが,その際記録係補助たる井上は,これをメモし,目前を通る違反車両及びその番号と濃沼の復唱した内容が一致するかを自らの目で確認したうえ,違反車両欄に「横浜55い5187」と記入したというのであるから,右欄の記載は井上巡査が視覚により認識したところを視覚により認識したところを誤りなく記載作成したものと認められるから,この欄を含め速度測定カードや検証調書に当ると認め,証拠能力を認めた原審の措置に違法はない。次に所論は,原審が刑事訴訟法321条3項により証拠能力を認めて証拠に採用した速度通報受理用紙謄本は作成者が他の捜査官から聞いたことをメモしたものにすぎないので,単なる捜査報告書であって,同条同項により証拠能力を肯認するに由ないものであり,これを証拠として採用し事実認定の用に供した原審の措置は判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。

しかしながら,原審証人平川清広,同足立幸子,同井上孝子の供述によれば測定現認係の警察官が視覚で認識したところをヘッドホーンで記録係に通報した内容そのままが通報受理時に右用紙に記入されるものであると認められるから右書面の証拠能力を刑事訴訟法321条3項により肯認した原審の措置は正当であったという他はなく,所論のような違法はない。

(判示事項3)

弁護人は,本件レーダー式速度測定装置は,その性能上,多重反射,フエージング現象等による誤測定を回避しえないものであるうえ,本件現場の近くには京浜急行大師線が走っているので,この大師線の電線を流れている高圧電流から出るスパーク等の影響もあったことなども推認されるのであるから,このような点を看過し右装置の測定結果をうのみにした原判決の事実認定には事実誤認の疑いがあると主張する。

しかしながら,当審証人吉井正吉の証言ならびに当審で取調べられた検察官作成の実況見分調書によれば,(1)昭和59年1月20日に検察官が本件取締りの際に使用された日本無線株式会社製作のJMA168A型車両走行速度測定装置を用いて本件現場で行なった実況見分の際,右装置に影響を及ぼす微弱電波の有無を調べたが,その際には右装置が影響を受けるような外来電波は存在しないことが確認されていること,(2)京浜急行大師線との関係についていえば,電車がマイクロ波を出すことはありえず,また,パンタグラフのスパークもそれが右装置の至近距離で生じていれば格別,本件現場のように右装置と電車線路とが約45メートルも離れている場合には,仮に電車の通過に伴ない,パンタグラフにスパークが生じたとしても,右装置による速度測定に毫も影響するものではないこと,(3)いわゆるフエージング現象に対しては,右装置は偏倚電圧装置を設け,それをこえた電波でなければ測定に寄与しないよう,いわゆるしきい値を設け更に歯ぬけリセット回路を設けることによりその影響を受けないように製作されていること,(4)いわゆる多重反射についていえば,トンネル内とか,道路の反対側に右装置と正対している建造物がある場合とか,自動車が鏡のような反射性質をもっている場合など,きわめて特殊な条件の場合にのみ起こりうるものであって,本件現場はこのような多重反射の生ずるような場所ではないこと,(5)右装置は,電波ビル内に測定対象とされた近づく自動車の他に遠ざかる自動車がある場合や電波ビル内に複数の自動車が相接して近づく場合の誤測定の危険に対しても,方向識別回路や自動識別回路によりチエックする仕組みになっていること,(6)サイドローブが大きく第一車線の中央まで出ていくことはないものでサイドローブを原因とする誤測定が本件では考えられないことが,それぞれ認められる。そして,右装置の正確性に関するこの証言は前述の,本件取締りに先立つ実験において時速40キロメートルの自動車が右装置により時速38キロメートルと速度表示されている事実によっても十分に裏付けられているというべきである。

したがって,右装置の性能に起因するプラスの方向での誤測定を生じさせる要因も本件取締りの際にはなかったことは明らかであり,弁護人の右主張は採用できない。

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